NDL Face

NDL Face について

LLMマルチエージェントによる日本古典文学テキストからの感情・表情表現の大規模抽出と横断検索基盤

プロジェクト概要

NDL Faceは、NDLデジタルコレクションに収録された古典文学テキストのフルテキストデータから、 登場人物の表情・感情・外見に関する描写表現をAI(大規模言語モデル)により大規模に抽出し、構造化データとして横断検索・閲覧できる研究基盤です。

従来、文学テキストにおける感情表現の収集は研究者の精読に依存しており、対象テキストの量が増えるほど網羅性と速度に限界がありました。本プロジェクトでは、近年飛躍的に向上したLLMの古典日本語理解能力を活用し、複数のLLMエージェントを並列実行する独自のパイプラインによって、この課題を解決します。

本研究は、東京大学における科研費プロジェクト「外見描写と内面評価の相関性史――創発的・学際的協働研究」(課題番号25K21831)と連携し、肖像における人物造形と印象評価の連動性を解明する調査基盤としても位置づけられています。

主な特徴

LLMマルチエージェント抽出

複数のLLMエージェントを並列実行し、数百ページ規模のテキストから感情・表情表現を自動抽出。従来の形態素解析では捉えられない文脈依存的な表現を構造化データとして出力します。

多面的な感情カテゴリ

喜び・悲しみ・怒りなど10種類の感情カテゴリ、身体部位(顔・目・口・頬等)、感情極性(ポジティブ/ネガティブ)、強度の4軸で構造化。二値的センチメント分析を超えた多面的分類を実現します。

ファセット横断検索

感情カテゴリ・身体部位・感情極性・強度によるファセット検索、キーワード検索、並び替え・ページネーションを備えた検索インターフェース。

原典画像との連携

抽出された各表現からNDLデジタルコレクション・次世代デジタルライブラリーの該当コマに直接リンク。原典を即座に参照できます。

抽出パイプライン

NDLデジタルコレクションのフルテキストから構造化データを生成するまでの処理フロー

1

テキスト取得

NDLデジタルコレクションのフルテキストデータ(数百ページ)を取得

2

チャンク分割

テキストを40〜50ページ単位のチャンクに分割し、並列処理に最適化

3

LLMエージェント並列実行

各チャンクに対しLLMエージェントを10並列で実行。表層形(surface)、感情カテゴリ(emotion)、身体部位(body_part)、文脈(context)、出現ページ(pages)等を構造化JSONとして抽出

4

統合・重複除去

全チャンクの抽出結果を統合し、重複を除去。品質検証を実施

5

Elasticsearch登録

構造化データをElasticsearchに登録し、ファセット検索・集計クエリに対応

6

Web公開

Next.js による検索UIを通じて、原典画像リンク付きで研究者に公開

データ構造

LLMが各表現から抽出するフィールド

フィールド説明
surface表層形(抽出された表現そのもの)
context表現が出現する前後の文脈
emotion感情カテゴリ(10種類+その他)
body_part表情が表れる身体部位
valence感情極性
intensity表現の強度
character表現の主体となる人物
pages原典での出現コマ番号
pidNDLデジタルコレクションの永続的識別子
title作品名

予備実験の成果

対象テキスト

作品
好色一代男 研究会講録
NDL PID
1882646
ページ数
427ページ
抽出件数
591件
エージェント数
10(並列実行)

感情カテゴリ別分布

悲しみ・哀れ
137
色気・艶
96
喜び・笑い
82
恥じらい・赤面
41
無表情・能面的
40
驚き
37
恐れ・不安
36
軽蔑・嘲笑
29
怒り・憤り
26
嫌悪
22

技術構成

抽出エンジン

  • Claude (Anthropic)
  • マルチエージェント並列処理
  • 構造化JSON出力

検索基盤

  • Elasticsearch 8.x
  • ファセット集計・全文検索
  • 多フィールドクエリ

フロントエンド

  • Next.js (React)
  • Tailwind CSS
  • レスポンシブデザイン

インフラ

  • Docker Compose
  • Cloudflare Tunnel
  • CDNキャッシュ

画像連携

  • NDLデジタルコレクション
  • 次世代デジタルライブラリー
  • コマ単位直リンク

データ公開

  • REST API
  • JSON構造化データ
  • オープンアクセス

研究上の意義

感情史・身体史研究への貢献

構造化された感情・表情表現データベースは、歴史上の感情表現の変遷を定量的に追跡するための実証的基盤となります。「悲しみ」や「怒り」がどのような語彙で、どの時代に、どのようなジャンルで表現されてきたかを横断的に分析できます。

日本文学研究の方法論的革新

LLMを用いた大規模テキスト抽出は、文学テキストの計量的分析に新たな可能性を開きます。従来の形態素解析ベースの計量文学では捉えられなかった、文脈依存的な表現の抽出が可能です。

デジタルアーカイブの高度活用

NDLデジタルコレクション等の大規模デジタル化資料に対し、AIによる付加価値の生成と検索基盤の公開というモデルケースを提示します。

他分野への汎用性

パイプラインは抽出対象をパラメータとして変更可能であるため、医学史料からの症例記述抽出、法制史料からの法令用語抽出など、他の人文学分野にも応用できます。

関連プロジェクト

外見描写と内面評価の相関性史――創発的・学際的協働研究

挑戦的研究(萌芽)・課題番号25K21831・2025〜2027年度

美術史・文学史・心理学の研究者が協働し、肖像における人物造形と印象評価の連動性を解明するプロジェクト。本システムはその調査基盤として位置づけられています。

Odeuropa Smell Explorer

EU Horizon 2020

ヨーロッパの歴史的テキスト・画像から「香り」表現を抽出し、横断検索・可視化するプロジェクト。本システムの設計において参考としています。

サイトを見る

クレジット

開発・研究中村 覚(東京大学 史料編纂所 准教授)
抽出エンジンClaude (Anthropic) — マルチエージェント並列処理
公開基盤mdx.jp face.ldas.jp
表現を検索する